キング・コーン 世界を作る魔法の一粒

骨折していいことは、気になっていた映画をDVDでゆっくり観られること。
とは言っても独り暮らしや入院でもないと意外と時間がなく、
まだ8本しか観られていない。
このところ立て続けに日本でも遺伝子組み換え作物の試験栽培や
農薬基準の緩和が申請されてはその都度そのまま認可されていて、
目に付くたびに毎度反対のパブリックコメントを送ってはいる私としては
他になんの抵抗策がないのかと歯がゆい限り。
で、この映画「KING CORN」を観たんだけど
想像していたような糾弾ドキュメンタリーではなく、淡々としていて、
それがかえってとても良かった。
映画は、大学を卒業した若い二人の男性が髪の毛の分析を依頼するところから始まる。
髪の毛には過去に食べたものが反映されるが
彼らはそのたんぱく質の由来が「トウモロコシ」だと知って驚く。
なぜ自分たちは「トウモロコシ」で出来ているのか。
そこで二人は1年間、1エーカー(4,046㎡)の土地を借りてトウモロコシの栽培に着手する。
アイオワ州は全米のトウモロコシ消費量をまかなえる量を生産している穀倉地帯。
二人が植えるトウモロコシの品種は「リバティ・リンクコーン」で
除草剤への耐性を持った遺伝子組み換えトウモロコシだが
この映画ではその是非は描かれていない。
農業は未経験の二人だが、4500キロの収穫になる3万1000粒のトウモロコシの種まきが
トラクターを使ってたった18分で終わり、
害虫や雑草の駆除も薬剤散布であっという間、失敗もなくコーンの収穫に入る。
自分たちで作ったトウモロコシを二人ががぶっと噛んでみて「不味い」と吐き出すシーンがある。
出来たトウモロコシの55%が飼料になり、32%が輸出され、残りがコーンシロップに加工される。
人間の口に直接入ることはない作物を作っていることを彼らが実感する印象的なシーン。
コーンシロップは砂糖より安価な甘味料として
飲料の他にも日常の食品のありとあらゆるものに使われている。
体重が140キロあったことを告白するタクシー運転手。
毎日2リットル以上飲んでいた炭酸飲料をやめたら自然に痩せた。
しかし自身も含め、家族は皆糖尿病。
「炭酸飲料が原因だなんて知らなかった」
出来た5000キロのトウモロコシを納品しても
畑の借り賃、種代、薬剤代などの経費を引くと19.92ドルの赤字になるが、
政府からの補助金28ドルをもらうと結果的に黒字になる。
大規模農業を黒字にする唯一の収入源が政府。
1970年にトウモロコシの増産政策の舵取りをした元農務長官、
アール・バッツ氏が二人のインタビューに答える。
「それまでは作り過ぎないことに補助金を出していた。
何もしないことに金を出すのはおかしい。そんな政策を変えたかった。
昔は農業は馬も人手もいる大変な作業だった。
今はアメリカ人の手取りの16%~17%が食費だ。
食料以外のことに金をかけられるようになった。
素晴らしいじゃないか」
農業を経済効率第一に考えれば小さい農家を潰して大農場に集約した方がいいだろうし
遺伝子組み換え作物は手入れも楽だし
そのお陰で安く食料品を手に入れられるというのは
この映画を観るとよくわかる。
そしてその恩恵を日本人である私も享受して生きている。
(2011年の統計では日本のエンゲル係数は23.6% 米国は15.2%)
子供の頃、食べるものというのは今よりも高かったように思う。
でも・・・
わかるけど、でもやっぱり、
生き物として何か間違った選択をしてきているんじゃないか、
皆が同じ方向を向くんじゃなくて
違う道を模索することがそろそろ必要じゃないかと思う。
極端な話、人間は食べて出す一本の管だ。
そこから逃れられるほどは進化していないのだから
エンゲル係数では生活の質をはかることが難しくなったとはいえ
生きることが食べることとかけ離れすぎたらまずいんじゃないのか。
自分の子供に、周囲の子供達に、もちろん大人にも、この映画「キングコーン」と
映画「不自然な食べ物
TEDスピーチ「ジェイミー・オリバー「子供達に食の教育を」

ジェイミーがインスパイアされたという11歳(!)の男の子のスピーチ

を観てもらって
一緒に食べ物の未来を考えたい。

この記事を書いた人

Saori Takano

「ここに来て良かった!」と心から言っていただける治療室を目指しています。
鍼灸治療は人対人の相性が重要だと思っています。
来院するかどうか迷っている方は
ざっと眺めていただいて参考にしてくださいませ。